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速やかに国民投票法の制定を■国民の主権行使の機会を奪うな【正論】百地章

速やかに国民投票法の制定を

■国民の主権行使の機会を奪うな

 
≪憲法公布60年を機に思う≫

 「戦後レジーム(体制)からの脱却」を目指す安倍内閣は、憲法・教育基本法の改正を謳い、憲法改正については任期中に実現を目指すという。「憲法改正」を正面に掲げて登場した内閣は、昭和29年の鳩山内閣以来のことであり、今後、安倍総理には強力なリーダーシップを発揮していただきたいと思う。
 近年の各種世論調査では、憲法改正を支持する国民は軒並み過半数に達し、本年3月5日付の毎日新聞の世論調査では、65%もの国民が憲法改正に賛成している。にもかかわらず、国会では、いまだに憲法改正のための具体的論議はなされていない。それどころか、憲法改正に際して必要不可欠な国民投票法さえ制定されていない有様である。


 ≪憲法運用に不可欠な法律≫

 憲法改正は、各議院の3分の2以上の賛成で国会が発議し、国民投票にかけられる。そして、国民投票において過半数の賛成があれば成立することになっている(憲法第96条1項)。それゆえ憲法改正のための国民投票法は、皇室典範や国会・内閣・裁判所法などと並ぶ、最も重要な憲法付属法律のひとつである。つまり憲法典を具体化し、実際に運用していくために不可欠な法律であるから他の付属法律と同様、憲法制定時には当然整備されていなければならなかった。それが憲法公布後、60年経っても制定されていないというのだから、どう考えても異常である。
 しかも、憲法は国民主権を採用しているが、国民が主権を直接行使する機会は憲法改正の時しかない。それ故、国民投票法を制定しないままでいるのは国民主権の否定につながる。というのは、通説によれば、国民主権とはすべての国民が国家権力の正当性の根拠であること(全国民の名において憲法が制定されたということ)だけでなく、有権者の総体が国家権力の究極的な行使者であること(すべての有権者によって憲法改正が行われること)をも意味するからである。
 したがって、国民投票は主権者国民が直接、主権の行使に参加できる唯一の機会であるから、国民投票法を制定しないということは、国民から主権行使の機会を奪うに等しい。にもかかわらず日頃、国民主権の意義や重要性を力説してきた共産、社民両党が国民投票法の制定そのものに反対しているのは矛盾である。
 さらに、昨年の最高裁判決によれば、国会によるこのような「立法の不作為」(国民投票法を制定しないままでいること)は違憲の疑いさえある。
 確かに国会にはどのような法律を制定するかしないかについて、広い立法裁量権が与えられており、このことは従来最高裁も認めてきた。ところが昨年9月14日、最高裁大法廷は在外国民の選挙権をめぐって非常に注目すべき判決を下した。


 ≪立法不作為は違憲の疑い≫

 それによれば、憲法が国民固有の権利として国民に保障した参政権の行使を「やむを得ない事由」もなく制限することは憲法違反である。また「立法不作為が国民の権利を明白に侵害している場合」や「立法措置をとることが必要不可欠かつ明白であるにもかかわらず、国会が正当の理由なく長期にわたって立法を怠る場合」などには、国会議員の立法不作為は違法となる。
 このように述べて、最高裁は政府が昭和59年に在外選挙制度創設の法案を国会に提出しておきながら、10年以上もそのまま放置してきたこと、および平成10年に改正された公職選挙法が比例代表選挙だけで、選挙区選挙の投票権を認めなかったのは憲法違反であるとした。
 この判決に従えば、国会が「やむを得ない事由」もないまま、選挙権以上に重要な憲法改正のための国民投票権を認めてこなかったことは憲法違反と考えられよう。
 また、主権行使のための国民投票法の制定が「必要不可欠かつ明白」であることは、これまで述べてきたとおりであり、昭和28年には、当時の自治庁が「日本国憲法改正国民投票法案」を作成している。にもかかわらず、国会は「正当な理由」もなく、それどころか改憲タブーと55年体制下の自社両党のもたれあいにより、50年以上もの「長期にわたって」制定を怠ってきたわけであって、このような立法不作為は違憲、違法といわなければなるまい。
 報道によれば、国民投票法が今国会で成立する見通しは立っていないという。しかしこれは疑問であって、国会はこの憲法違反の疑いを一日も早く払拭すべく、速やかに国民投票法を制定すべきである。

【正論】百地章 
(日本大学教授)
<産経新聞> 2006年11月3日

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